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ダークマターハローの形成・進化(Ⅲ. 網目構造・ボイド構造の形成)

宇宙の構造形成は、はじめに微小なダークマターの密度揺らぎが重力崩壊し、小さいダークマターの塊 (ダークマターハロー) が形成します。そしてそれらが合体してより大きなハローへと進化し、その中でガスが集まって銀河が誕生します。 そして銀河の集団である銀河団が形成し、さらにそれらは網目状に分布する銀河でつながっています。網目状のパターンはフィラメント構造とも呼ばれます。また網目構造に囲まれた銀河が存在しない領域はボイド構造と呼ばれます。これらの構造が宇宙の大規模構造を構成しています。

この映像は、 Uchuu と名付けられた一連のシミュレーションのひとつのダークマター分布を可視化したものです。宇宙初期のダークマター密度揺らぎを最大約2.1兆の粒子で表現し、重力相互作用による現在までの進化を追いました。ダークマターの分布の上で、星や銀河の材料となる物質(バリオン)の進化を準解析的に計算することで、銀河や活動銀河核の分布、進化、統計的性質をこれまでにない広い領域で予測できるようになります。すばる望遠鏡などで行われる今後の広視野観測と比較することで、私たちが住む宇宙の進化や構造の歴史が紐解かれることが期待されます。

シーン解説
図1

宇宙初期にはほとんど一様にダークマターが存在していましたが、わずかな密度のゆらぎがありました。周囲よりも少しでも濃いところは重力が強いために、周りからダークマターをひきつけてますます濃くなり、塊(ハロー)を形成します。初期のダークマターの分布は宇宙マイクロ波背景放射観測機「プランク」によってもたらされた、最新の観測結果に基づいています。

図2

小さなダークマターハローがいくつも形成されています。ハローは繰り返し合体、成長していきます。この計算はダークマターの進化のみを計算したものです。実際の宇宙では大きく成長したハローの中ではその重力によって水素やヘリウムといった星の材料になる物質も濃く集まり、初代星や銀河が生まれます。こうしたハローは、すばる望遠鏡やジェイムスウェッブ宇宙望遠鏡による観測で報告されている、宇宙初期の銀河候補に対応しているかもしれません。

図3

合体を繰り返すにつれ、ハローはどんどん成長していきます。宇宙誕生から10億年程度経過するころには、天の川銀河と同程度の質量のハローやハローの集団が数多く誕生します。これらは現在の宇宙での銀河団の先祖である原始銀河団に対応すると考えられています。

図4

現在の宇宙まで成長した様子です。無数の銀河や銀河団サイズのハロー、そして大規模構造が形成されています。中心の巨大なハローはシミュレーションで形成した一番大きなものです。ここで時間を止めてこのハローの構造をみてみましょう。

図5

このダークマターハローは、太陽の1000兆倍ほどの重さに成長したもので、銀河団に相当するものです。ハローの周りに漂うより小さいダークマターの塊はサブハローと呼ばれ、銀河団を構成する銀河を宿していると考えられています。ハロー中心に近づくほど巨大な重力の影響でサブハローが高速に運動しています。次に大規模構造の中を巡って、その構造をみてみましょう。

図6

ハローの集団同士を結ぶ網目状パターンや、網目構造に囲まれた銀河が存在しない領域、ボイド構造が見られます。これらの構造が宇宙の大規模構造を構成しています。この映像では可視化の際に網目構造が強調される仕掛けを施しており、従来の映像と比べ網目構造やボイド構造が際立っています。

図7

別のハローを拡大しています。さきほど見たものと形やサブハローの数や分布が異なります。このようにハローは個性豊かで、ハローがどのようにできたかの歴史を反映しています。

数値計算詳細
計算目的 標準的宇宙論モデルにおける、ダークマター、銀河、活動銀河核の分布、進化、統計的性質の解明
計算モデル LCDMモデル
計算に使用した粒子数 粒子数最大128003(約2.1兆)
使用した計算機 Cray XC50「アテルイⅡ」、40,000 CPU コア
現象の時間スケール 約138億年
現象の空間スケール 約3Gpc(96億光年)
数値計算を行った人 石山智明(千葉大学)
参考 “The Uchuu simulations: Data Release 1 and dark matter halo concentrations”, Ishiyama, T. et al., 2021, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 506, 4210-4231
映像化詳細

このシミュレーションは2兆体を超える粒子を用いた非常に大規模なものであるため、そのままでは結果を映像として描画するのは困難でした。したがって粒子数をおよそ60億体まで間引き、描画を行っています。速度によって色付けがされており、寒色系(青、紫など)は速度が小さく、暖色系(黄色、オレンジなど)は速度が大きいダークマターを表しています。

映像は全方位立体視映像として作成しているため、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で見ることが可能です、さらに4Kモニタ用として、ショートバージョンの映像も作成しました。4Kモニタを使用することで、より詳細にご覧いただくことも可能です。

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映像クレジット

シミュレーション:石山智明
可視化:中山弘敬
国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

リリース情報

2023.12 バージョン1.0 解説ページ公開

個人や学校教育での利用は自由です。クレジットの明記をお願いします。
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