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小惑星の衝突と形状の進化

「小惑星」は、主に岩石でできた小天体で、その多くは直径100km以下の大きさを持っています。近年の惑星探査によって太陽系の小惑星の姿が詳細に捉えられ、ラッコやソロバン玉のような形、細長い形や雪だるまのような形など、その多様性が注目されています。

このようなさまざまな形状の小惑星が形成されるうえで重要なプロセスが、小惑星同士の衝突破壊です。小惑星同士が衝突することで、一度は岩石が粉々に砕けて多数の破片になります。しかしその後、破片同士の重力によって集積することで、瓦礫の寄せ集めのような天体が形成されます。小惑星イトカワもこのようにしてできたと考えられており、破片間の摩擦力によって「ラッコ」に似た球が2つ合体したような特異な形状を保っています。

この映像では、小惑星同士が衝突して粉々に破壊され,破片が重力で寄り集まって新しい天体を作る様子を、コンピュータシミュレーションによって描き出しました。

シーン解説
図1

直径100kmの球状の小惑星2つが衝突する直前の状態です。2つの小惑星は正面衝突をするのではなく、少しだけずれた位置で衝突します。

図2

衝突の衝撃によって小惑星が破砕し、衝突面と平行な方向に拡散することで、破片で構成されたシート状の構造ができあがります。この映像で描いている粒子ひと粒は破片の集合体を表しており、その大きさは約1kmです。

図3

破片同士の重力によってシート状の構造が分裂を起こし、細長いフィラメント状の構造が多数できあがります。フィラメント構造の中で密度が高い部分に破片が寄り集まり、球状の集積天体が多数形成されます。さらに形成された集積天体同士がゆっくりと合体をすることで、さまざまな形の小惑星ができます。

図4

次は視点を変えて、シート状の構造をほぼ真横から見た映像です。

図5

さらに視点を寄せて、集積天体の間を縫うように移動してみましょう。破片の集積過程と集積天体同士のダイナミックな合体の様子をお楽しみください。

図6

フィラメント状に集まった小惑星の破片がいくつもの塊に分裂し、多数の集積天体が形成されています。大きめの球状のかたまりは直径数10kmほどです。

図7

形成された球状の集積天体同士がさらに合体します。小さな塊が潮汐力によって形を崩しながら、大きな塊へと合体していく様子が見て取れます。

図8

集積天体同士の合体速度がゆっくりとしているため、それぞれの形状をある程度保ったまま合体するものもあります。あるものは球が2つくっついたピーナッツのような形状になります。

図9

大きい集積天体に小さい集積天体が衝突し、小さい天体は再びバラバラに砕け散ります。しかし、大きい集積天体の表面に砕け散った破片が重力によって降り積もります。

図10

このシミュレーションで形成した集積天体のサイズは直径数10kmです。これは小惑星イトカワより2桁ほど大きいものの、ラッコのような形状の天体が形成されました。

研究者・映像制作者による解説
数値計算詳細
計算目的小惑星同士の衝突大規模破壊と、その後の破片の重力再集積によって形成されるラブルパイル天体の形状の解明
計算手法岩石の弾性力・ひび割れ破壊・破壊後の粉体の摩擦を考慮した連続体力学的計算手法(SPH法)および自己重力(Tree法)
計算に使用した粒子数約400万個
初期条件直径100kmの小惑星同士が相対速度350m/sで正面衝突から15°だけずれた状態での衝突
使用した計算機Cray XC50「アテルイⅡ」
現象の時間スケールシミュレーション全体(映像内の0:35-3:19)で10万秒(約1日)
現象の空間スケール〜100km(衝突した小惑星のサイズ)-〜1000km(破片シートのサイズ)
〜1km(破片の集合体を表す粒子1個あたりのサイズ)
数値計算を行った人杉浦圭祐(東京工業大学)
参考Sugiura, K., Kobayashi, H., Inutsuka, S. (2020) High-resolution simulations of catastrophic disruptions: Resultant shape distributions. PSS, 181, 104807
映像化詳細

この映像は、多体シミュレーション可視化ツールZindaijiを使って制作しました。全体の色は玄武岩の色をイメージして灰色に着色しています。また、衝突した破片を立体的にとらえやすいように、破片の周囲の陰影を強調表示しています。0:30からの後半部分は局所的な現象を見やすくするために、前半の5分の1倍速で制作しています。

映像クレジット

シミュレーション:杉浦圭祐
可視化:長谷川鋭
国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

リリース情報

2024.3 バージョン1.0 VR版公開、ドームマスター配布開始

2021.3 バージョン1.0 平面版公開

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