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ブラックホールを取り巻くガス円盤

ブラックホールは超高密度なゆえに強い重力をもち、その中に入ると光すら出てこられない極限天体です。ブラックホールの周囲にガスが存在すると、そのガスはブラックホールに向かって落下します。このようなガスの落下は、ブラックホールの成長には欠かせません。さらに、多くの銀河の中心には巨大なブラックホールが存在し、その中には、大量のガスの落下が起こっていると考えられるものが見つかっています。では、大量のガスがブラックホールに落下するとどんなことが起こるのでしょうか?この映像では、シミュレーションによって明らかになった、ブラックホールへの落下によってガスが明るく輝く様子を紹介します。

この映像では赤と青の2色を用いて2つの量を表しており、赤い色が強いほど高密度なガスが存在する領域を、青い色が強いほど光のエネルギーが効率よく遠方まで伝わっている領域を示しています(※「映像化詳細」参照)。

シーン解説
図1

ブラックホールの周辺をガスが円盤状に回転する様子です。このようなガスでできた円盤を「降着円盤」と呼んでいます。ガスはブラックホールの周りを回りながら少しずつブラックホールへと落下します。ブラックホールの近くまで落下すると、ガスの重力エネルギーが熱エネルギーに変わって1千万度を超える高温となり、光を発します。光はガスと衝突しながら、ガスとともに円盤上空へと噴出します。このように円盤から噴出する細く絞られた希薄なガスの流れを「ジェット」と呼びます。

図2

降着円盤を真横から見たところです。大量のガスがブラックホールの周りを取り巻いているため見通すことができず、ブラックホールは降着円盤に隠されています。

図3

ブラックホールに近づいてみましょう。ブラックホールの近くでは、ガスは光の速さの30%もの速さで回転しています。しかし、ブラックホールのごく近傍ではあまりに重力が強くなるため、ガスは回転することができずに落下してしまいます。このため、ブラックホールのすぐ近くではガスの密度は低くなります。

図4

この計算では、大量のガスがブラックホールの周りを取り囲んでいるため、光はガスと衝突して方向を変えながら広がっていきます。このため、M87のブラックホールで観測されたようなリング状の構造ではなく、ぼんやりと広がった構造が見られます。

図5

ブラックホールと降着円盤を正面から見たところです。ブラックホール近くの降着円盤から放射された強い光は主に円盤の上下方向に飛んでいくため、降着円盤を正面から見ると非常に明るく輝いて見えます。ただし降着円盤は非常に高温のため、可視光線ではなく主にX線で明るく輝きます。

図6

円盤表面付近に青く表されている光は、上空へと噴出しながららせん状に回っています。これはブラックホールの周りを回るガスに光が衝突することによって、光もガスに引きずられるように回りながら上空へと噴出するためです。

図7

最後に全体像を見ています。ブラックホールに落下するガスが多い程、降着円盤は明るく輝きます。このようなブラックホールへの大量のガスの落下は、ブラックホールと星の連星や、銀河の中心に存在する巨大なブラックホールに星が落下する際に起こり、非常に明るく輝く天体として観測されます。

数値計算詳細
計算目的太陽の10倍の質量を持つブラックホールへのガス降着と放射機構の解明
計算手法一般相対論的磁気流体シミュレーション、輻射輸送
計算に使用したグリッド数264 × 264 × 64
使用した計算機Cray XC30「アテルイ」
現象の時間スケールシミュレーション全体:〜 0.05 秒
現象の空間スケールジェットの端から端まで:〜 7,300 km
ブラックホールの直径:〜 59 km
数値計算を行った人高橋博之(駒澤大学)、大須賀健(筑波大学)
参考“FORMATION OF OVERHEATED REGIONS AND TRUNCATED DISKS AROUND BLACK HOLES: THREE-DIMENSIONAL GENERAL RELATIVISTIC RADIATION-MAGNETOHYDRODYNAMICS SIMULATIONS”, Hiroyuki R. Takahashi; Ken Ohsuga; Tomohisa Kawashima; Yuichiro Sekiguchi, The Astrophysical Journal, Volume 826, Issue 1, article id. 23 (2016).
映像化詳細

本映像は空間を半径方向、緯度方向、経度方向のグリッドに区切って流体シミュレーションを行った結果を可視化したものです。ゲームエンジンの「Unity」で開発したソフトウェアを用いて可視化・映像化されました。映像は全方位立体視映像として作成しているため、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で見ることも可能です。 このシミュレーション結果を効果的に可視化するには、各グリッド内の「流れ」を表現する必要がありました。一般的には流線と呼ばれる線を用いて流れの表現を行いますが、今回は各グリッド内に粒子を流すことでよりダイナミックな流れの表現を行っています。 今回の映像で見せたい構造のひとつが、ジェットです。しかし、ジェットは見る方向によって明るさが変わってしまいます。ジェットを真上から見ると明るく見えますが、横からではほとんど見えません。そのため、この映像ではジェットの構造をどの方向からも見やすくするために、明るさではなく「光のエネルギーの伝わりやすさ」で色付けをしました。青い色が強いほど、光のエネルギーが効率よく遠方まで伝わることを表します。

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映像クレジット

シミュレーション:高橋博之、大須賀健
可視化:中山弘敬
国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

リリース情報

2023.1 バージョン1.0 解説ページ公開
2021.3 バージョン1.0 を YouTube にて先行公開

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