太陽くらいの質量を持つ恒星の過半数は多重星として生まれることが知られています。恒星が多重星として誕生するのか、または太陽のような単独星として誕生するのかを分ける要因のひとつとして、乱流が注目されています。この乱流は、恒星が生まれる母体となる分子雲の乱流です。このシミュレーションでは、乱流を持った細長い分子雲から、分子雲コアが形成し、分子雲コアの中で多重星が生まれる様子をシミュレーションによって描きだしました。計算の結果、最終的に3個の原始星からなる三重星が生まれました。三重星が周囲のガスをかき乱し、星の周囲には複雑なガスの構造が作らます。とくに弓状の細長い構造が特徴です。最近のアルマ望遠鏡による電波観測では、このような弓状の構造が観測されはじめています。
分子雲は細長い形をしています。分子雲の幅は0.1pc(0.3光年)、長さは画面に表示してある部分で1.5pc(5光年)です。色はガスの濃さを表しています。この分子雲に起こる乱流によって、分子雲に密度むらが生じ、その濃い部分が周囲のガスを重力によって集めると考えられています。乱流の原因は様々ですが、このシミュレーションでははじめに乱流があるものとして計算をしています。
分子雲の濃いところにガスが集まり、分子雲が分裂します。こうしてできる濃いガスの塊を「分子雲コア」と呼びます。分子雲コアの中を拡大していきましょう。
分子雲コアの中心部は、乱流によって複雑な形をしています。ガスは重力に引かれて分子雲コアの中心に向かって落下してゆきます。しかし乱流によってガスの落下運動が乱され、これが引き金となってガスは次第に回転していくようになります。
分子雲コアは重力によってガスを集めて収縮し、このシミュレーションでは4個の原始星が生まれました。映像では原始星は赤みがかった光る球で表示されています。そのうち2個がすぐに合体して、3個の原始星が生き残ります。はじめはカオス的に運動していた星の軌道が、だんだん安定した軌道に変わります。
原始星は周りのガスを吸い込みながら質量をふやしていきます。距離が近いペアと距離が離れた原始星で、三重星が形成します。離れた原始星を大きなガスの円盤が取り巻いています。
ペアを作っている原始星は、互いに邪魔し合ってなかなかガスを取り込めません。一方、離れた原始星には、周囲にできたガス円盤からガスが原始星に落ち、順調に質量を増やしていきます。
ここで、時間をとめて構造を見てみましょう。三重星は周囲のガスをかき乱し、周囲に複雑な構造を作ります。とくに弓状に長く伸びる構造が特徴で、およそ1000天文単位ほどの長さを持ちます。このような構造は、アルマ望遠鏡の電波観測によって捉えられています。この弓状構造は、3つの原始星がお互いに周りあいながら、ダイナミックに星が形成されている証拠と考えられています。
計算目的 | 乱流分子雲における星形成,ならびにアルマ望遠鏡で観測された分子雲コアMC27/L1521Fの再現 |
計算コード | SFUMATO |
計算手法 | メッシュ法+適合格子細分化法+マルチグリッド法+シンク粒子法 |
使用した計算機 | Cray XC30 “ATERUI” |
現象の時間スケール | 星が生まれるまでのシーン(0:00-0:09)70万年 星が生まれてからのシーン(0:27-1:41)2万4千年 |
現象の空間スケール | 5光年(動画のはじめの視野)〜100天文単位(拡大時) |
数値計算を行った人 | 松本倫明(法政大学) |
参考 | An origin of arc structures deeply embedded in dense molecular cloud cores, Matsumoto, T., Onishi, T., Tokuda, K., Inutsuka, S. -I., Mon. Not. R. Astron. Soc., Vol. 449, p. L123-L127 (2015) |
謝辞等:可視化映像の元データとなったシミュレーション研究は,科研費補助金(26400233, 26287030, 24244017, 23540270, 23403001, 23244027, 23103005, 22244014)によって支援されました
このシミュレーションでは、初期の大きなスケールの分子雲からその中の多重星系に近づくほど、より高い解像度で計算するために細かく計算グリッドが切られています。そのため、単純にひとまとまりの均質なデータとして扱って、シミュレーション結果を表示することはできません。
大きな計算グリッドの領域のデータの中に、より細かな計算グリッドのデータが入れ子になっているものとして、大小の解像度の違うデータを同時に表示することができるよう工夫を行い、映像を作成しています。
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