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ダストの衝突合体成長

原始惑星系円盤では、ミクロン以下のサイズの非常に小さな固体の塵である「ダスト」が衝突合体を繰り返しながら成長し、やがて惑星が形成されると考えられています。しかしながら、そのダストの衝突成長過程がよくわかっておらず、惑星形成における大きな問題の一つとなっています。ここでは、コンピュータシミュレーションによって明らかにされつつあるダストの衝突合体過程について紹介します。

シーン解説
図1

ダストははじめ、半径0.1ミクロン程度の小さな粒子として、原始惑星系円盤内でガスととともに太陽(中心星)の周りをまわっています。やがて、一つの粒子が別の粒子と衝突し、付着し、さらにその付着したもの同士が衝突し、また付着し……という過程を繰り返して成長していきます。

図2

ダストはやがて多数の粒子からなる「アグリゲイト」と呼ばれる構造となり、なお成長していきます。

図3

この「倍々で成長していく」過程で形成されるダストは非常に「ふわふわな」構造となります。そのまま成長していくと密度は10-4g/cm3ほどにもなってしまいます。これは驚くべきことに私たちを取り巻く空気よりも軽いのです。

図4

はじめのうちはただ変形せずに付着成長する一方ですが、やがて衝突エネルギー(または衝突速度)が大きくなってくると、衝突のたびに圧縮変形が生じ、密度の大きいコンパクトなダストが形成されます(とはいってもまだまだ「すかすか」です)。

図5

さらに高速(>10m/s)で衝突するようになると、ダストの破壊が生じはじめ、破片が飛び散りだします。ここでは構成粒子のサイズがある分布を持つようなより現実的なダスト同士の衝突をシミュレートしています。もっとも大きな構成粒子のサイズは0.4ミクロンです。

図6

もっと高速(>100m/s)で衝突すると、衝撃によってダストが激しく破壊されます。まるで木っ端微塵になったように見えますが、これでも最も大きな塊は元のダストの大きさに比べると成長しています。

図7

ダストの衝突は正面衝突とは限りません。斜め衝突がたくさん起こります。このように、ときには破壊されながらも衝突合体を繰り返し、ダストは惑星のもととなるキロメートルサイズの微惑星、そして惑星へと成長すると期待されます。ですが、このダスト成長説を適用できるのは、現在の理論では氷でできたダスト限定です。岩石からなるダストの場合、想定される高速衝突を生き延びることが難しい、というのが現状の理解です。

数値計算詳細
計算目的ダストの衝突合体成長(あるいは破壊)過程の解明
計算モデル粒子間相互作用を考慮した粒子計算モデル
計算に使用した粒子数:〜数万個
使用した計算機汎用計算機
現象の時間スケール<~1µsec
現象の空間スケール<~100µm
数値計算を行った人和田浩二(千葉工業大学)、陶山徹(長野市立博物館)、田中秀和(東北大学)
参考文献和田浩二,離散要素法による衝突の数値シミュレーションの歩み,2015, 日本惑星科学会誌(遊・星・人),Vol.24, No.3, 201-213.
和田浩二,つぶらな衝突,2009, 日本惑星科学会誌(遊・星・人),Vol.18, No.4, 216-225.
陶山徹,和田浩二,田中秀和,2008,合体成長過程におけるダスト圧縮過程の数値計算とその定式化,日本惑星科学会誌(遊・星・人), Vol.17,No.3,177-184.
Wada, K., Tanaka, H., Okuzumi, S., Kobayashi, H., Suyama, T., Kimura, H., and Yamamoto, T., 2013, Growth efficiency of dust aggregates through collisions with high mass ratios, Astron. Astrophys., 559, A62 (pp.8).
Suyama, T., Wada, K., Tanaka, H., and Okuzumi, S., 2012, Geometrical cross sections of dust aggregates and a compression model for aggregate collisions. Astrophys. J. 753, 115 (10pp).
Wada, K., Tanaka, H., Suyama, T., Kimura, H., and Yamamoto, T., 2009, Collisional Growth Conditions for Dust Aggregates. Astrophys. J., 702, 1490-1501.
Wada, K., Tanaka, H., Suyama, T., Kimura, H., and Yamamoto, T., 2008, Numerical Simulation of Dust Aggregate Collisions. II. Compression and Disruption of Three-Dimensional Aggregates in Head-on Collisions. Astrophys. J., 667, 1296-1308.
映像化詳細

このシミュレーションでは、半径0.1ミクロン程度の氷粒子一つ一つの運動を追いかけることでダスト同士が衝突したときの様子を再現しています。その粒子一つ一つを白い球で映像化しました。この映像では可視光の波長より小さい粒子を扱っているため、実際には色がないのですが、見てわかりやすいように氷をイメージして着色しました。また後半の全体にダストが散らばるシーンでは、立体感を感じてもらうため、衝突した粒子の中を漂うように映像構築いたしました。また、映像を見やすくするために、実際とは異なる速度・時間で表示しています。
映像は360度立体視映像として作成しているため、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で見ることも可能です。

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映像クレジット

シミュレーション:和田浩二、陶山徹、田中秀和
可視化:長谷川鋭
国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

リリース情報

2018.12 バージョン1.0 公開

個人や学校教育での利用は自由です。クレジットの明記をお願いします。
博物館等での展示・上映および、映像番組・出版物などでの利用は事前の申請が必要です。
詳しくは利用規程をご覧ください。

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