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天の川銀河紀行

天の川銀河は、宇宙にありふれた「棒渦巻銀河」であり、「我々の太陽系が属する銀河」でもあります。そのため、天の川銀河の構造や進化の歴史を明らかにすることは、他の銀河がどのように形成され進化したのかを知る上でも重要であり、さらに太陽系の起源の理解にも繋がると考えられます。ですが、われわれが天の川銀河の内側にいるため全体像がわからず、その構造や進化過程は観測データだけから明らかにするのは難しいという困難があります。
この映像では、銀河進化の基本的な物理過程である星・ガスの重力相互作用、星間ガスの運動や進化、星の形成とその周囲への影響を考慮したシミュレーションを行った結果を可視化し、天の川銀河の多様な構造を描きだしました。

シーン解説
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シミュレーションで描きだした「天の川」です。夜空を横切る天の川は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡を使って観測することで、無数の星の集団であることを突き止めました。天の川の中には、無数の星以外に「散光星雲(さんこうせいうん)」と呼ばれる赤い雲状の天体もあります。また、「暗黒帯」と呼ばれる天の川を分断するように広がる黒い帯状の構造も見られます。

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天の川に近づいてみましょう。暗黒帯として見えていた部分は、「暗黒星雲」と呼ばれる雲状の天体の集まりであることがわかります。暗黒星雲は、ガスの密度が大きく、そこに含まれる塵が背景の星の光を遮断するため、黒く見えています。暗黒星雲の中には、ほとんどの水素や炭素,酸素などが分子の状態で存在しています。そのため、「分子雲」と呼ばれます。この分子雲の中で星や星団が生まれます。

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次に、天の川から抜け出してみます。天の川を構成していた星やガスが円盤状に分布していることがわかります。また、中心には棒状に星が集まった構造があり、その両端から円盤全体に伸びる渦巻き腕が見えます。これが「天の川」の正体である「天の川銀河」の姿です。

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ここからは時間を早送りして,天の川銀河の天体がどのように運動しているのか見てみましょう。星は天の川銀河の中心の周りを回転運動しています。それと同時に、まるでイルカが海面をジャンプして泳ぐように、円盤面に対して上下運動をしていることがわかると思います。太陽系もこのような運動をしていると考えられています。

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再び円盤の中に戻ります。分子雲の中で形成された星団からの紫外線が周囲のガスを電離し、赤く輝くHII(エイチツー)領域が作り出されます。このHII領域が膨張することで、分子雲は破壊されます。

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無数の星からなる夜空に見える「天の川」の中には、このように棒状構造や渦巻構造といった様々な銀河構造に加え、分子雲の中で星団が形成され、そしてそれから放射されるエネルギーで周囲のガスを輝かせたり、散逸させたりということを繰り返しているのです。

数値計算詳細
計算目的天の川銀河の様々な構造におけるガスや星の運動、分子雲進化の違いを明らかにすること
計算モデルASURAコードを利用、重力計算(TREE-GRAPE 法)、放射冷却、超新星爆発・HⅡ領域・星間紫外線による加熱、分子生成、星形成を考慮
計算に使用した粒子数:約1000万–1億粒子,ダークマターハローは外場として導入
使用した計算機Cray XC30「アテルイ」(国立天文台天文シミュレーションプロジェクト)
現象の時間スケール約1–10億年
現象の空間スケール約50万光年
数値計算を行った人馬場淳一(国立天文台; 計算実行・解析時は東京工業大学、愛媛大学)
参考 ReferenceJ. Baba: “Short-term dynamical evolution of grand-design spirals in barred galaxies”, 2015, MNRAS, Volume 454, Issue 3, pp. 2954-2964 J. Baba, K. Morokuma-Matsui, & T. R. Saitoh: “Eventful Evolution of Giant Molecular Clouds in Dynamically Evolving Spiral Arms”, 2017, MNRAS, Volume 464, pp.246-263

ここで映像化した計算結果は、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」および計算基礎科学連携拠点の元で実施し得られたものです。

映像化詳細

本映像はゲームエンジンの「Unity」を用いて可視化・映像化されました。
星の分布や色だけでなく、HII領域や暗黒星雲も同時に可視化を行っています。HII領域とは電離された水素ガスが赤い光を放つ領域のことで、1万度程度の電離ガスに対して赤く色づけすることで再現しました。また、背後の星の光を遮ることで黒く見える暗黒星雲は、分子ガスの密度に応じて描いています。これらの可視化によって、より実際の銀河に近い見た目が再現されています。
映像は全方位立体視映像として作成しているため、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で見ることも可能です。

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映像クレジット

シミュレーション:馬場淳一
可視化:中山弘敬
国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

リリース情報

2017.6 バージョン1.0 公開

個人や学校教育での利用は自由です。クレジットの明記をお願いします。
博物館等での展示・上映および、映像番組・出版物などでの利用は事前の申請が必要です。
詳しくは利用規程をご覧ください。

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