土星探査機「カッシーニ」によって、これまで想像されていなかった多様な構造が土星の環に存在することが明らかとなってきました。そのような構造の1つにプロペラ構造があります。これは、対称な長いしずくのような2つの模様からなる構造で、飛行機やヘリコプターのプロペラのような形をしており、現在までに多くのプロペラが発見されています。この構造は、環に埋もれた直径数100メートル程度の小さな衛星の作用で作り出されていると考えられています。コンピュータシミュレーションによって明らかとなってきたプロペラ形成の様子を紹介します。
土星の環は、莫大な数の氷の粒でできていると考えられており、遠くから見ると一様で薄い円盤に見えます。
近づくと複雑な構造が見えてきます。氷の粒が重力の作用で集まって集団を形成することにより、このような模様ができます。これは自己重力ウェイク構造とよばれ、土星の環の広い領域に存在する基本的な構造です。
土星探査機カッシーニによりプロペラとよばれる小さな構造が数多く発見されています。回転方向にのびる2つの小さなしずくのような模様を合わせた構造です。大きさは典型的には数100メートルから数キロメートルです。
プロペラ構造ができる理由を調べるためにコンピュータシミュレーションを行いました。環の中のごく一部の数キロメートルの範囲を抜き出して計算をしています。
計算領域の中心には直径100メートル程度の小さな衛星があります。衛星の周囲には自己重力ウェイク構造がみられます。衛星からのびる構造がプロペラです。
衛星の重力の作用が強いため、周囲の氷の粒が引き寄せられて、衛星の表面に降り積もっているのが見えます。
表面に降り積もらない氷の粒も衛星の重力によって動きが乱されます。その影響で衛星からのびる小さな穴ができます。
環では内側ほど速く、外側ほど遅く回転します。この回転速度の違いにより、衛星の作った穴が、内側では衛星の進行方向前方、外側では後方に引き伸ばされます。これがプロペラのような特徴的な模様を作ります。
計算目的 | 土星の環におけるプロペラ形成過程とその条件 |
計算モデル | 計算手法:粒子間衝突を考慮した重力多体シミュレーション 計算に使用した粒子数:約75万 |
使用した計算機 | GRAPE-DR(CfCA,NAOJ) |
現象の時間スケール | 数日 |
現象の空間スケール | 約 10 km |
数値計算を行った人 | 道越秀吾,小久保英一郎(国立天文台) |
参考 Reference | Michikoshi & Kokubo, 2011, ApJ, 732, L23 |
この計算は、計算領域の端が壁になっているのではなく、左の端が右端につながっているようにくり返しになっているものとして比較的狭い計算領域でも広い領域の出来事が計算できるようにしてあります(周期境界条件)。
土星リング全体を見るシーンでは、出来るだけ広い領域を見渡せるように、プロペラ構造の無い状態の計算結果を周囲にコピーして映像にしています。
前作(土星リングの力学I. wake構造)では、土星の全景を表示するシーンから、シミュレーション結果を見るシーンへと、表示の切り替えを行っていましたが、今回はひとつながりの連続したシーンとして構成しています。 土星リング全体のスケールと、プロペラ構造のスケールの対比を感じることができるでしょう。