「中性子星」は宇宙における極限天体の1つで、太陽の1.4倍の質量をもちながらも、半径は約10kmしかなく、その密度は1cm3あたり1兆kgにもなります。さらに、宇宙にはこのような極限天体が対になって存在していることがあり、2つの中性子星が合体することもあります。KAGRAをはじめとする次世代重力波望遠鏡は、この「中性子星合体」からの重力波を直接検出することを目指しています。
この数値シミュレーションは、中性子星合体からX線や可視光、電波などの電磁波がどのように放出されるのかを明らかにするため行われました。この計算によって、重力波が検出されたあとに、どのような電磁波観測をすれば良いかが明らかとなり、重力波と電磁波の観測を合わせた「マルチメッセンジャー天文学」への道を開くことができました。
2つの中性子星が重力波を放出しながら、じわじわと距離を縮めていき、最後に合体します。次世代の重力波望遠鏡は、この中性子星合体からの重力波を直接検出することを目指しています。さらに、中性子星合体からは電磁波も放射されることが期待されています。
このシーンの最後に、中性子星合体の現場から、光の速さで数十日掛かる場所へ移動して、合体がどのように光るのかを見ることにします。
2つの中性子星が合体すると、星を構成していた物質の一部が宇宙空間に放出されます。放出された物質内で新たな元素の合成が進み、その中には放射性元素が含まれているため、中性子星合体はその崩壊エネルギーによって明るく輝きます。(爆発直後の1-5日間ぐらいのシーンについては演出効果を使い、光子が飛び散る様子を表しています)
放出された物質は光速の10-20%もの超高速度で膨張していきます。時間とともに密度が低くなるため、だんだんと放出物質のより内側が見えてきます。合体から15日程度で物質はすかすかになり、光を出さなくなります。
これは放出された物質が放つ光の色を表しています。この色は、放出された物質の温度によって変わります。中性子星合体で放出される物質から期待される電磁波は可視光線から近赤外線の波長をもち、私たちの目には「赤く」見えるでしょう。
別の角度からシミュレーションの結果を見ています。中性子星合体は非常に非対称な現象で、消えてしまう直前は連星の軌道面から光が出ているのが分かります。
計算目的 | 中性子星合体からの電磁波放射の解明 |
使用した計算機 | Cray XC30 アテルイ |
現象の時間スケール | 15日間 |
現象の空間スケール | およそ1015cm から1016cmへ時間とともに膨張 |
数値計算を行った人 | 田中雅臣(国立天文台) |
参考 | Tanaka, M., & Hotokezaka, K., 2013, The Astrophysical Journal, 775, 113 |
この動画では連星合体の様子は模式図として作成しました。光の強度は緑で表しています。ただし爆発直後の1-5日間ぐらいのシーンについては演出効果を使い、光子が飛び散る様子を表しています。動画後半部ではデータの値を元に近似した色温度の体積表示をしました。