銀河は数千億個の星が集まってできています。中でも渦巻銀河は星同士の重力やガスの圧力、超新星爆発など複雑な現象によって支配されています。しかし、星同士が引き合う重力相互作用(万有引力)は渦巻銀河の渦状腕を形作る基本的な力であり、その理解は渦巻銀河がどのように進化するかを知る上で重要です。
これまでにもコンピューターシミュレーションによる研究が進められてきましたが、今回のシミュレーションでは従来より多くの粒子を使って銀河円盤を再現することで、従来のシミュレーションで指摘されていた「銀河の腕が数億年で消えてしまう」という問題が低解像度であることによる数値的な問題であり、実際には、重力の働きにより銀河の腕は宇宙年齢の間消えずに残ることがわかりました。
質量のあるものは全て万有引力によって引き合っています。離れた星同士はこの力によって引き合い、結びついています。
この結びつきの数は星の数が増えるにつれ、2個なら2×2=4、3個なら3×3=9、10個なら10×10=100と星の数の2乗で増えて膨大になっていきます。
銀河には恒星が数千億個もあり、それらが重力相互作用によって結びついて進化しています。ここでは3千万体というたくさんの粒子を用いた大規模粒子シミュレーションによって銀河の進化を再現しています。
この膨大な数のつながりを全て足し合わせて、銀河がどのように進化するのかをスーパーコンピューターGRAPE-DR*によってシミュレーションしました。 初期に用意したなめらかな円盤は重力相互作用によって腕を持った構造を形成していきます。
* GRAPE-DRは重力相互作用のような単純であるけども数が膨大な計算を高速演算することに特化して開発されたスーパーコンピューターです。
参考: Makino J., Hiraki K., Inaba M., 2007, in Proc. ACM/IEEE Conference. ACM, New York, p. 1
腕ができている部分だけを強調して表示すると、銀河の腕は回転しながらちぎれたりつながったりを繰り返していることがわかります。
銀河の進化過程を正しく再現するためには、十分な粒子数を用いたシミュレーションが必要です。今回のシミュレーションでは多くの粒子を用いること で、渦巻銀河の腕は100億年経っても消えずに存在できることがわかりました(左側が今回のシミュレーション、右は従来の低解像度のシミュレー ションです)。
計算目的 | 渦巻銀河の渦状腕の力学的進化過程の解明 |
計算モデル | 計算手法:重力相互作用のN体シミュレーション 計算に使用した粒子数:3千万体(一個の粒子が太陽質量の1000倍になっています) |
使用した計算機 | 国立天文台 Cray XT-4 128コア(3ヶ月) |
現象の時間スケール | ~10億年 |
現象の空間スケール | ~5万光年 |
数値計算を行った人 | 藤井通子(鹿児島大学) |
参考 Reference | Title: The Dynamics of Spiral Arms in Pure Stellar Disks Fujii et al., 2011, ApJ, Volume 730, Issue 2, article id. 109 |
この映像では視点近傍の星は薄い青で粒子として描き、遠くで星が集まっているところはぼんやりと光るようにしています。一部では腕の構造とその進化をよりみやすくするために平均よりも粒子密度が濃くなっているところだけを強調しています。この映像は立体視用とドームマスター(魚眼)の提供が可能です。