土星の輪の正体は何でしょうか? 数十センチメートルから数メートル程度の小さな氷の塊が、非常に数多く土星の周りを周回して、それが全体として輪のように見えるということが分かっています。ボイジャーやカッシーニといった惑星探査機が撮影した写真から、土星の輪は非常に複雑な構造をしていることが分かります。こうした土星の輪の構造を作り出すようなメカニズムとは何なのでしょう。そうした謎を解くためのコンピューターシミュレーションの一つを紹介します。
土星の輪は、非常に数多くの氷の粒から出来ているために、全てを一度に計算することは出来ません。この計算は、沢山の氷の塊が土星の周りを回っているときに、何が起こるのかを知るために土星の輪のごく一部だけを切り取って計算したものです。
最初に、どのような計算をしたのか簡単な解説の映像を見てみます。内側の衛星ほど速く土星の周りを回っているのが分かります。輪を構成する氷の粒も同様の運動をしています。そうした氷の粒の動きを赤い矢印で表してみます。
氷の粒の運動と一緒に、土星の周りを周回してみましょう。輪の内側は、速く運動しているのでカメラはどんどん追い越されてゆきます。一方輪の外側は、遅く運動しているので、カメラがどんどん追い越してゆきます。ちょうど、高速道路で内側の車線の方がスムーズに車が進んでいるときのような状態です。
こうした運動をしている土星の輪の中で、輪と一緒に土星を回りながら、土星の輪のごく一部、数百メートル四方の部分を計算したのがこの計算です。
非常に複雑な構造が見えてきました。これは、数多くの氷の粒が集団で形作っている模様でwake(= 水面にできる波紋、航跡)構造と呼ばれます。
<図5>こうした模様は、氷の塊たちが、自ら重力で集まろうとする効果と、土星の周囲を回る回転の速度が違うために、引き伸ばされようとする効果で生じています。
氷の塊同士は、非常に激しくぶつかり合っているように見えますが、この映像は全部で数日分の運動の結果を2分ほどに縮めてみたもので、実際には塊同士の相対運動は非常にゆっくりとしたものです。
こうした小さいスケールの構造は、カッシーニなどの惑星探査機でも直接見ることはできませんが、掩蔽観測などの手段で間接的に観測されています。土星リングの最も濃い部分では、恐らくこうした構造ができているのではないかと考えられています。
土星リングに見える縞模様は、ここで計算したものよりもう少し大きいスケールの現象です。この計算ではまだ探査機の写真に写っているような縞模様は見えていません。近年のより大規模な計算により、そうした縞模様の成り立ちも徐々に明らかになりつつあります。
基本となるモデル | 周期境界+Shearing Box |
計算目的 | 土星リング内の力学 |
計算モデル | 計算手法:重力多体シミュレーション + 粉体計算 計算に使用した粒子数:7×104個 |
使用した計算機 | GRAPE-6 |
現象の時間スケール | 数日 |
現象の空間スケール | 数十~数百m |
数値計算を行った人 | 台坂博(一橋大学) |
参考 Reference | H. Daisaka, H. Tanaka, and S. Ida, Icarus 154, 196, (2001) |
この計算は、計算領域の端が壁になっているのではなく、左の端が右端につながっているようにくり返しになっているものとして 比較的狭い計算領域でも広い領域の出来事が計算できるようにしてあるものです(周期境界条件)。出来るだけ広い領域を見渡せるように計算結果をコピーして、広い領域の表示をして映像にしています。