星は、宇宙を漂うガスの雲が自らの重力で収縮することで生まれます。回転するガスの雲からは、互いの周りを回る連星系が生まれると考えられます。ガスの雲から、星の元となるガスの塊が形成されてゆく様子を紹介します。
ゆっくりと回転しているガスの雲が収縮を始めて、やがて中心部に特に濃い領域が生まれました。ここでは、ある程度計算が進んで、中心に濃い領域ができた状態から映像化しています。
最初は、時間を固定したままカメラを一周させて、様子を見ています。
回転の成分を持っている為に、対称形ではなく少し引き伸ばされた棒状になっています。
時間の進みを再開させました。物が集まってくると中心付近の重力が強くなり、それに釣り合うように回転も速くなります。ガスは渦を巻くようにして中心に落ち込んでゆきます。何箇所かガスの濃い塊ができているのが見えます。
こうした塊は、互いに重力で引き合っていますが、回転の遠心力があるために1つにまとまることが出来ません。ガスが収縮してから2000年ほどもすると、塊が2つになりました。
2つの塊が出来た状態で、時間を止めて、カメラを一周させています。
この2つのガスの塊が、それぞれさらに収縮をして、やがて自ら輝きだして、星になると、連星系の誕生です。
基本となるモデル | A rotating Bonnor-Ebert cloud |
計算目的 | 重力収縮する分子雲コアにおける連星系形成 |
計算モデル | 計算手法:Nested grid 法、Roe 法、multigrid 法 計算に使用したメッシュ数:256×256×32 格子を15レベル重ねた 初期条件:臨界 Bonnor-Ebert 雲に10%密度を増加し、回転運動を与え、微小ゆらぎを加える |
境界条件 | 固定境界条件 |
使用した計算機 | VPP5000 |
現象の時間スケール | ~106年 |
現象の空間スケール | 0.14 pc – 1 AU |
数値計算を行った人 | 松本倫明(法政大学)、花輪知幸(千葉大学) |
参考 | Matsumoto & Hanawa, 2003, ApJ, 595, 913 Matsumoto & Hanawa, 2003, ApJ, 583, 296 |
このシミュレーションは、本来は非常に大きなガスの雲から星への収縮を計算したもので、今回映像化したシミュレーション領域の外でも、ガスの運動の計算がされています。上の数値計算の詳細にあるように、15段階もの入れ子状の計算がされているのです。今回は、そのもっとも中心部分のシミュレーションを映像化しました。そのため、映像上ではシミュレーション領域の外からガスが流入しているように見えています。
本来ならば、階層の全てを映像化したいところですが、今回映像製作用に出力されたデータは、そのもっとも中心部の計算のもののみです。
この映像化は、POV-Rayという有名なフリーウェアで行われました。レイトレース法という、精密な手法で描画しているので、ガスの運動などを美しく映像化できています。しかし、その代償として描画が非常に大変で、今回の映像を製作するために、最終のレンダリングでは4台のPCを用いて1週間以上かかっています(!)。これはもちろん、半透明なガスのボリュームレンダリングであることと、シミュレーションのデータが細かいことからきたもので、通常のCG製作はそこまで時間はかからないのですが。(追記:このころの時代に比べると、パソコンの計算速度は5〜6倍になっています。この解像度であればだいぶ楽な時代になりました)